◎連載第2回 . . . . .(社)日本音楽事業者協会会報「UFUFU」掲載ページより
「有名人にはプライバシー権がない」の真っ赤なウソ
 一口にアーティストの「肖像権」といっても、大きく分けてアーティストの財産権やパブリシティ権にかかわるものに大別されます。パブリシティ権に関しては、次回に説明することにして、今回はプライバシー権についてお話します。

 前回、肖像権に関して様々な誤解や曲解があると言いましたが、このプライバシー権についても誤解や勝手な解釈がまかり通っています。「アーティスト、スポーツ選手、政治家といった、いわゆる“有名人”にはプライバシー権がない」とか「“有名人”のプライバシー権は国民の知る権利や報道の自由という観点から 大幅な制約を受ける」などと主張されても、反論できないことになりかねません。

 まず、結論を先に言いますと、同じく“有名人”であっても、スポーツ選手やアーティスト、タレントは、政治家とは違ってプライバシー権が明確に認められているのです。
 
[タレントと政治家のプライバシー権は、どう違うのか?]
 確かに、アーティストやタレントは、単に大衆の憧れの対象であるばかりか、大衆に夢や希望を与え、またその生き方や考え方まで大衆に強い影響を及ぼすことがあるという意味で「公的な存在である」と言うことができます。この「公的な存在」という点をいわゆる“報道の自由”や“国民の知る権利”と一緒に考え合わせると「アーティストやタレントのプライバシー権は、一般人に比べてより広い制約を受けるべきだ」という見方も成り立ちます。

 しかし、同じ“有名人”“公的な存在”ではあっても、アーティストやタレントの場合は、政治家とはプライバシーの保護される範囲が全く異なるのです。それは一体何故でしょうか?まず、その理解が重要です。

 政治家というのは、国民に選挙で選ばれてはじめて政治家になり得る存在です。従って選挙公約や国家観あるいは政治活動ばかりでなく、その私的な行動にかかわる情報も、国民がその政治家を投票するかしないかを判断する場合の材料になり得ますから、例え私事にかかわる情報が公開され報道されたとしても、それが事実である限り、プライバシー権の侵害にはならないことが多いのです。例えば、マスコミが「政治家に妻以外の愛人がいる」という“事実”を報道したとしても、その政治家のプライバシー権の侵害にはなりにくく、またその記事と一緒に政治家の写真が掲載された場合、プライバシー(肖像権)の侵害として訴えても、勝訴の見込みは薄いといえます。但し、報道が事実無根であれば名誉毀損が成立します。

 政治家の場合には、例えば「愛人を囲っている政治家なんかには投票しない」など、その政治家の公私にかかわるあらゆる情報が、国民の政治的意思決定の参考材料になるので“国民の知る権利”を守るために、報道の自由が保障されるのです。その意味で、政治家のプライバシー権は、かなり制約されます。政治家というのは、それだけ公的な存在だといえますね。
 
[「報道の自由」は万能ではない]
 政治家と異なり、アーティストやタレントは、国民の選挙で選ばれる役職ではありません。タレントには国や地方の政治家を左右する権限はありませんので、報道機関がタレントのプライベートな情報を国民に伝えても、国民の知る権利に奉仕したことにはならないのです。

 報道の自由は報道機関が国民の知る権利に奉仕した場合にだけ認められる権利ですから、タレントのプライバシーに関する情報には「報道の自由」という大義名分は使えないのです。従って、政治家と異なり、アーティストやタレントのプライバシーはしっかりと保護されるべきです。

 アーティストやタレントの私事を無闇に報道することは例えばそれが事実であっても、プライバシー権の侵害になり得ます。勝手にアーティストやタレントのプライバシーを報道する権利は誰にもありません。

 平成12年12月25日、東京高等裁判所は某有名サッカー選手のプライバシー侵害事件で、サッカー競技に直接関係しない事実を掲載する行為はプライバシーを侵害すると判決した。アーティストやタレント同様、スポーツ選手も有名人といえどもプライバシーは尊重されるべきであり、表現の自由の見地からプライバシー報道を甘受せざるを得ない政治家とはプライバシー保護の範囲が全く異なるのです。

 ですから「アーティストやタレントにはプライバシー権はない」などという主張に簡単に耳を貸さないでください。勝手にタレントの私事が報道された場合には、それが事実であろうとなかろうと、人格権侵害、名誉毀損、プライバシー権侵害が成立する可能性が極めて高いのです。
 
[藤田憲子さんの勝訴に注目]
 しかし、従来スキャンダルを売り物にしてきたようなタレントが急にプライバシー権を主張しても勝ち目はありません。自らプライバシーや人格を放棄してきたと見なされるからです。

 そうしたスキャンダルを売り物にしてきたタレントではないタレントが、過去のヌード写真を現在本人に無断で掲載されたような場合には、プライバシー権や人格権の侵害を主張し戦うことが可能です。

 「週刊現代」と「フライデー」の両誌に過去のヌード写真を掲載されたとして、藤田憲子さんが講談社に1億円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁は平成13年12月19日、550万円の賠償金の支払いを命じています。かつて掲載を同意したことがあっても、今回の写真掲載は同意の範囲外で違法であるとし、肖像権を認めたものです。

 繰り返しますが「“有名人”にはプライバシー権がない」などという迷妄を信じてはいけません。今後は、アーティストやタレントは、政治家とは異なりプライバシー権があるという認識の下に、皆さんとご一緒に、監視の目を厳しくしましょう。
 
   
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