◎連載第4回 . . . . .(社)日本音楽事業者協会会報「UFUFU」掲載ページより
タレントの名誉を害する記事内容はその内容が、
真実であるか否かにかかわらず違法性を有します

 過去3回の説明で、肖像権については大体お分かりいただけたと思います。今後このシリーズでは、機会がある毎に具体的な判例についての解説を交えながら、肖像権への理解を深めてもらえるようにしたいと考えます。

 最近の判例をみますと、平成13年9月5日に東京地方裁判所が極めて重大な判決を下していますので、今回はこの判決について解説したいと思います。

 この判決内容を簡単に説明しますと、あるテレビ局の女子アナウンサーのXが学生時代にランジェリーパブでアルバイトをしていたという週刊誌の記事で名誉を傷つけられた上に、写真誌に過去に撮った水着姿の写真を掲載され肖像権を侵害されたとして、その週刊誌と写真誌の出版元であるYを相手取り約1500万円の損害賠償などを求めた訴訟(以下「本件」という)で、東京地裁がYに対して770万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じたものです。

 原告及び被告の主な主張と裁判所の判断については、下記対比表を参照してもらえればと思いますが、この判決に含まれる問題を大別すると(1)プライバシー権並びに名誉毀損と(2)パブリシティ権並びに肖像権の二つに分けることができます。
[容姿を露出している女子アナであっても昔の
写真を無断掲載するのは違法である。]
 まず(2)の肖像権問題から見てみますと、本件では、当該記事に別の雑誌のために撮影されたXの水着写真などを掲載したことが肖像権侵害に当たるとされ、200万円の慰謝料請求が認められています。
 言うまでもなく、写真を撮るとか、逆に撮らせるという際には、「何のために何に使うかという」目的が必ずあるはずです。本件において使用された写真は、Xが以前に別の雑誌に掲載することを目的に撮影された写真です。したがって、別の雑誌や別の目的で使用するためには、当然、Xの事前許諾が必要だったわけです。
 もっとも、事前許諾を取るとは言っても、本件のような名誉を毀損する使用を、Xが許諾するはずもないでしょうが。
だからといって、無断で使用してよいという理由はどこにもありません。
 また、Yは、Xのようにテレビを通じてその容姿を広く社会に露出している場合には、その肖像の公表に関する利益の侵害については受忍すべき程度が高いので、本件写真の掲載又は再掲載に対して裁判所は「いかに日常その容姿を社会に露出しているアナウンサーであるからといって、アナウンサーとしての生活とは関係のない学生時代の水着姿を撮影した写真についてまで、肖像権を放棄しているものとは到底解しがたく、Yの主張は採用できない」と判断しています。
 タレントの場合も、現在のタレント活動とは全く関係ない学生時代の写真などが雑誌で無断掲載される例が山ほどありますが、本件判例に従えば、あれは完全に違法行為だということになります。タレント・マネージメント業界は、雑誌の「投稿写真コーナー」などにもっとクレームをつけてしかるべきです。悪質な雑誌がはびこるのを防ぐためには、黙認するのが一番いけない。告訴までいかなくても、相手がイヤになるほど、抗議を続けることが肝要です。
[「公共の利害にかかわる報道」という言葉に、騙されてはいけない]
 さて次に、本件における(1)の名誉毀損並びにプライバシー権についてお話ししましょう。

 そもそも、常識的にいっても、Xが学生時代にランジェリーパブでアルバイトをしていたという事柄は、現在のXの仕事とは何ら関係の無いプライバシーに属するものであり、それを雑誌などで無断公表することはXのプライバシー権を侵害するだろうというのが一般人の感覚ですよね。また逆に破廉恥なサービスをしていたと思わせるような記事は名誉毀損の対象になるだろうと、誰でも思うはずですよね。

 ところがYは、Xが単にニュース番組のアナウンサーにとどまらず、半ばタレントとして他の番組に多数出演し、その個性、言動などを視聴者に注目せしめる存在であり、看板タレントであるXが過去に破廉恥なサービスをする店で働いていたという記事は、テレビ局の営業等にもからんでくる情報なので公共の利害に関するものであるから、違法性はないと主張したんです。

 しかし、判決にもあるように、Xが学生時代にどんなアルバイトをしていたかなんてことは、公共の利害に係わる事柄ではありません。公共の利害に係わる事柄とは、多人数が関心を寄せる事柄では足りず、社会全体に知らせる必要がある事柄(例えば、政治家のスキャンダル)です。しかし、Xは政治家のような公的な存在ではないのですから、その私生活は、読者の単なる興味あるいは好奇心の対象となる事柄ではあり得ても、公共の利害に関する事柄とはおよそかけ離れたものであり、Xのプライバシーに属する記事は、名誉毀損(プライバシー権の侵害)であり、裁判所は不法行為と判断しました。

 破廉恥な行為が行われているランジェリーパブでアルバイトをしていたなどという記事は、当然、名誉毀損になります。そうした名誉を毀損する記事の掲載は、その内容が真実であるか否かにかかわらず、違法性を有するのです。

 この点について、裁判所は「本件記事は、通常の一般人であれば羞恥心を害される破廉恥な行為を伝達するものであるから、本件記事の掲載によって、Xの社会的評価が低下することは明かである。したがって、本件記事の掲載は、Xの名誉を毀損すると認めるのが相当である」と指摘しています。そして、さらに重要な事は「本件記事の掲載は、その内容において、Xの名誉を害し、また、その内容が公共の利害に関するものではないから、その内容が真実であるか否かにかかわらず違法性を有し、不法行為に該当する」と指摘していることです。

 以上のように、本件は、タレント・マネージメントに従事される方々や、タレントに関する報道を行うマスコミ関係者にとってきわめて重要な判例ですから、是非とも参考にされますようにお勧めします。
<女子アナウンサーに関する週刊誌等の記事に関する
平成13年9月5日、東京地方裁判所判決内容抜粋>
[原告側(X)の主張]
 本件記事は、Xがランジェリーパブで働き、破廉恥なサービスをしていたとの事実を伝達するものであるから、Xの名誉を著しく毀損する。
[被告側(出版社:Y)の主張]
 本件記事は、Xが客に対し積極的な接客をしていた事実を伝達するにすぎず、何ら破廉恥なサービスをしていた事実を伝達するものではない。
[裁判所の判断]
 本件記事は、X自身も積極的に客が望む性的なサービスを提供していた事実を伝達するものであり、通常の一般人であれば羞恥心を害される破廉恥な行為をしていたことを伝達するものであるから、社会的評価が低下することは明らかである。したがって、本件記事の掲載は、Xの名誉を毀損する。
 
[原告側(X)の主張]
 Xがランジェリーパブにおいて働いた経験があり、かつ、その接客の様子を赤裸々に書き立てることが、公共の利害に関する事実であるとは到底いえず、本件記事等の掲載は専ら本件雑誌の販売数をあげるためになされたものであるから、その目的も公益を図るものとはいえない。
[被告側(出版社:Y)]
 テレビ局各社がどのような職歴、個性を持つ女性を「女性アナウンサー」として採用したのか、ということは、公共の利害に関する事実である。「Xの過去の職歴は、一般の女子学生とは隔絶したものであり、そのような女性であるXを採用した会社の営業の実情を知る上で重要な情報なのだから、本件記事の内容は公共の利害に関する事実である。」
[裁判所の判断]
 テレビ局のいわゆる「女子アナウンサー」が、アナウンサーになる以前の学生時代にどのようなアルバイトをしていたかという事柄は、読者の単なる興味あるいは好奇心の対象となる事柄ではあっても、不特定多数人が関心を寄せてしかるべき公共の利害に関する事実とはおよそかけ離れたものであることは明らかであり、Xの学生時代のアルバイト内容を知ることが、テレビ局の営業の実情や営業戦略等を知る上で、重要な事項であるとは到底認め難く、被告の主張は理由がない。
 
[原告側(X)の主張]
 人はだれでも、みだりに自己の容姿を撮影した写真を公表されない肖像権を有する。本件写真は、いずれも特定の雑誌の特定の企画への掲載を目的として撮影されたものであって、Xは本来の目的に使用する限りにおいて、承諾を与えていたに過ぎない。本件での使用は、承諾外の使用であるから肖像権の侵害として不法行為を構成する。Xが広く社会に対しその容姿を露出する者であったとしても、そのことから直ちに肖像権の侵害を主張することができなくなるものではない。本件写真の掲載又は再掲載と本件記事等に関する争点とは、直接関係するものではないから、本件写真が社会の公共関心事とは到底いうことができず、また、その掲載又は再掲載が公共の利益を図るためになされたとも言えない。
[被告側(出版社:Y)]
 本件写真は公表されることを前提としてその撮影に応じているのであるから、Xはそもそも本件写真に関し、公表されないという利益を有しているものではないし、公表の態様に関する目論見の違いや、掲載媒体に関する期待の阻害などは、独立の不法行為の対象と成るものではない。仮に、Xの肖像権に対する侵害があったとしても、Xのようにテレビを通じてその肖像を社会に広く提供している者については、容姿の公表に関する利益の侵害に対しても、一般人に比し、その違法性の有無の基準と成るべき受忍限度の範囲内であるから、その撮影方法に違法性が認められない限りは、不法行為を構成するとはいえない。
[裁判所の判断]
 自らの写真を雑誌等に公表することを承諾するか否かを判断する上で当該写真の公表の目的、態様、時期等の当該企画内容は極めて重要な要素であり、人が自らの写真を公表することにつき承諾を与えるとしても、それは、その前提となった条件の下での公表を承諾したにすぎないというべきである。したがって、公表者において、承諾者が承諾を与えた諸条件と異なる目的、態様、時期による公表をするには、改めて承諾者の承諾を得ることを要するというべきであり、公表自体についての承諾であれば、その公表の態様等に違いがあっても、肖像権の侵害にならないとする被告の主張は失当である。このことは、当初の企画通りの掲載がなされた写真を再度掲載する場合も同様に当てはまり、当該再掲載については、改めて肖像権を有する者の承諾を必要とすると解するのが相当である。仮に、その容姿を広く社会に露出している者の肖像権の公表に関する利益の侵害については、そうでない者に比べて受忍すべき限度が高いと評価されることが有り得るとしても、それには限度があるのであって、いかに日常その容姿を社会に露出しているアナウンサーであるからといって、アナウンサーとしての生活とは関係のない学生時代の水着姿を撮影した写真についてまで、肖像権を放棄しているものとは到底解しがたく、被告の主張は、採用することができない。

   
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