・・・ジュネーブ日記・・・
「滅多にない機会だからジュネーブに一緒に行こうよ」との藤原精吾人権擁護委員長の 一言に誘われて、人権規約を精読したこともないのに、百聞は一見にしかずとばかり ジュネーブの国連ヨーロッパ本部で開催される国際人権(自由権)規約委員会の第4回 日本政府報告書の審査に派遣される日弁連代表団に自費参加した。 以下は初心者の見聞録である。
 成田発の日航機に搭乗し資料を読み始める。前回審査時の土田嘉平日弁連代表団長の 報告(自由と正義45巻3号)が当時の状況を活写し面白い。
 5年前にも、規約人権委員会は、多くの問題について懸念を表明し、日本政府に対し 「第一・第二選択議定書」と「拷問等禁止条約」の批准、「婚外子の差別是生」のた めの法改正・「最も重大な犯罪以外に対する死刑制度の廃止」・「公判前手続」と 「代用監獄制度」の規約への適合措置等を勧告した。
 ところが、その直後に当時の三ヶ月法務大臣が、死刑囚4名の死刑を執行するとい う勧告に対する挑発的態度をとった事実を踏まえ、土田団長は、国際人権規約を普及 する必要性を指摘している。今回は政府と規約委員会との間で対話が成立するであろ うか。
 
 アムステルダムで乗り換え、偶然一緒になった藤原委員長とジュネーブに到着、先発 隊の国際人権問題委員の海渡雄一、外山太士委員、広報室の田中みどり団員と合流する。NGOとの人権規約委員のランチタイムブリーフィングは順調だったらしい。
 
 海渡、外山委員は、午前中は規約委員に配布する追加書面の作成に専念し、正午に 全員集合してローザンヌの市内観光へ、ウィリアムテルの彫像があって、レマン湖や スイスアルプスが一望できる広大な芝生の公園を見つけたが、良く見ると地方裁判所 であった。こんな場所で仕事ができるスイスの弁護士がうらやましい。夜はブラッセ リー(自家製ビヤホール)で会食し、田中団員がフランス語の実力を発揮する。
 
 国連ヨーロッパ本部に行き通行証の交付を受けるが、日本の団体とかち合い圧倒される。敷地が広大で迷子になりそう。午後3時からの合同プレスブリーフィングを行う。参加したのは朝日、共同通信、時事通信、読売、関西テレビの6社。代表団長の中村仁日弁連副委員長が到着。
 
 中村団長、藤原委員長は、午前中から関係各所に表敬訪問へ出向き、海渡、外山委員は、日曜日に作成した追加文書についてロビーイング活動をする予定である。気楽な立場の小生は単独でジュネーブを散策し、レマン湖の遊覧船に乗る。
 夕食は赤尾国連特命大使から大使公邸での晩餐会に招かれ、無難な会話をしながら 日本食を楽しむ。敷地は5万m2のこと。
 
 早朝、アドバイザーのシルビア教授も合流して、録音に最適な場所を確保するため審査会場に一番乗りする。
 午前10時に赤いスーツのシャネ委員長(女性)が開会宣言し、審査が開始された。 各省庁の課長補佐クラスが中心の日本政府代表団が質問項目に従って答え同時通訳されるが、答弁は防御的であり、対話にならない。
 「警察官の人権侵犯は、法務省の人権擁護委員が調査できる。」とか「監獄法4条 で裁判官、検察官が監獄を巡視できることになっているから代用監獄は適切に運用されている。」とか聞いたこともないような制度が、実際行われているように説明されるし、規約委員会の見解が引用された裁判例として、国が判決を不服として上告中の 事件を挙げたりするので傍聴席が次第に気色ばんでくる。意図的とも思われるミスリーディングな答弁が続くうちに、本日の審査は時間切れとなり、明日再開されることになった。
 我々は、ホテルに戻り、駅で買ったサンドイッチをかじりながら海渡委員のダブル ベッドを囲んで討議し、規約委員に配布する反論資料及びプレス向けのコメントをまとめる。海渡、外山委員とシルビア教授の英訳作業は深夜に及んだ。
 
 昨夜作成した資料を審査開始前に規約委員に配布したところ、異例の再質問がされることになり「規約の適正な運用例として引用した裁判例について、政府は争って上告しているではないか」と指摘されたり「代用監獄制度について裁判官が巡閲 する制度があるというが、過去5年間に実施された回数は何回か」との質問に政府は「データがないから答えられない」等苦しい答弁を強いられる。シャネ委員長は、最後に規約違反を正当化するのに世論調査を再三援用する政府 の態度を批判し「政府はNGOの報告を偏見だと決めつけず、日弁連等のNGOと対話を進めることを望む」とコメントした。
 我々も、反省的座談会を行い、状況の改善に最も効果があるのは、独立した人権 救済機関の設立と、裁判官に対する国際人権法教育だということで意見が一致した。

   
   
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